2012年度には、新生仔ラットから抽出した延髄スライス標本内で機能的に活動を継続している呼吸中枢神経細胞に対して、アーティフィシャルな持続性Na+電流のノックインおよびノックアウトを行った。 呼吸ペースメーカー細胞に対して、ダイナミッククランプシステムによって持続性Na+電流のノックアウトを行ったところ、細胞は周期性バースト活動形成能を失い、単発性の発火のみを示すことが明らかとなった。この効果は、ダイナミッククランプによる持続性Na+電流のノックアウトを解除すると消失し、細胞は再度周期性のバースト活動形成を行うことが確認された。 次に呼吸中枢内の非ペースメーカー細胞に対して、持続性Na+電流のノックインを行った。非ペースメーカー細胞は自身では周期性のバースト活動形成能を持たない細胞として知られている。持続性Na+電流のノックインを行うと、ペースメーカー細胞と非常に類似した特長を持つ周期性バースト活動の形成が認められた。ペースメーカー細胞との類似は、バースト活動の特徴だけでなく、その周期性にも強く認められた。 これらの結果の詳細な解析を行うことによって、呼吸ペースメーカー細胞のリズムは、持続性Na+チャンネルの「非活性化からの回復」プロセスに依存することを明らかとした。 実データに基づいた数理モデルを用いて、リアルタイムにてコンピュテーショナルにイオン電流をノックイン、ノックアウトする手法は、これまで一般的に行われてきた薬理学的アプローチの限界を克服するものである。本研究によって、これまで得られることのなかった、呼吸ペースメーカーニューロンにおける持続性Na+チャンネルの詳細なチャンネル開閉キネティクス、それを詳細に説明し得る数理モデルが明らかとなったばかりではなく、持続性Na+チャンネルの「非活性化からの回復」プロセスが呼吸ペースメーカー細胞のリズム形成に必須であることを示した。
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