大きな歯原性腫瘍や嚢胞の治療には術後の神経障害や顎骨に生じる大きな骨欠損を避けるために開窓療法を行って、サイズをある程度縮小させてから摘出を行っているのが現状である。この治療法はかなり有効であるが、2度(開窓時と摘出時)の外科的侵襲を伴い、治療期間も半年以上を要することが短所である。そこで歯原性腫瘍の病態を解析し、病巣内に注射で薬を入れる等の簡単な治療法により、腫瘍の発育阻害を起こして腫瘍を小さくしたり、消滅させたりすることが本研究の最終の目標である。 1、歯原性腫瘍の病態解析:手術によって摘出した組織の一部をパラフィン包埋し、連続切片を作成して免疫染色やin situ hybridizationを行い、発育増大に関わる様々な因子について調べたところ、IL-1αやKGF等が嚢胞上皮細胞の増殖に大きく関与していることがわかった。 2、アンチセンスの作成: IL-1αやKGF等のmRNAが放出されると、それぞれのレセプターにくっつき、核内に情報が伝達されて細胞の増殖がおこる。これらのレセプター特有の塩基配列を持つアンチセンスを各種条件を変えながら作成し、培養細胞上で IL-1αやKGFのmRNAとのつき具合を確認した。IL-1αやKGF産生細胞の近隣にこのアンチセンスを大量に投与することで、IL-1αやKGFが 細胞内のそれぞれのレセプターにくっつく可能性がほとんどなくなることが期待でき、IL-1αや KGFの働きを無効にする事で発育増殖を妨げる事が可能となる。この状態では核内に情報が伝達されず、細胞増殖がおこらない。したがって、腫瘍の増殖能を制御出来ることにつながる。現在、このアンチセンス法による遺伝子発現制御能を確認している段階で、アンチセンスの導入効率を上げ、発育増殖制御能の向上させることが今後の課題である。
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