研究概要 |
上皮細胞は病原微生物の侵入に対して,最前線に位置し,物理的な生体防御機能を有している.病原微生物による上皮の崩壊,宿主の自己防衛免疫機構の障害ならびに病原微生物の感化によって,感染症は惹起される. 歯原性上皮細胞とは歯胚の外胚葉成分から発生した細胞成分である.歯胚の形態や細胞の分化は,歯の形成過程において,外胚葉性組織(上皮)と外胚葉性間葉の両者の複雑な誘導的相互作用によって制御されている. 歯根嚢胞は歯原性上皮(残存上皮)が増殖する疾患の中で比較的発症頻度の高い疾患で,根管治療を施しても治療困難な程増大した歯根嚢胞に関しては歯根端切除術あるいは抜歯が余儀なくされ,歯牙の予後に大きな影響を与えている.しかし,その発症機序,増殖機構に関しては未だ不明な点が多い.本研究では,歯根嚢胞上皮の増殖には自己防衛反応としての免疫反応が機能し,細菌感染に対する歯根嚢胞上皮の増殖は感染の波及を止めようとする自己防衛的な反応であると仮説し,歯原性上皮細胞の感染防御機転を解明することを目的として,歯根嚢胞形成過程ならびに細菌感染暴露下の歯原性上皮細胞における抗菌ペプチド(広範囲な抗菌活性を有する)とE-cadherinの発現について解析・検討した. 歯根嚢胞切片を用いた実験から,炎症急性期では主にα-defensin, LL37による化学的抗菌作用を発揮し,炎症慢性期では主にβ-defensin1,2を発現させ,炎症急性期と慢性期では,異なる抗菌物質による抗菌作用を示す可能性が示唆された. さらに,ラット歯原性上皮細胞(HAT-7)を用いた実験では,歯原性上皮細胞は,細菌感染時に抗菌ペプチド(β-defensin2, rCRAMP)を発現し,化学的な抗菌活性を有しながら,E-cadherinの発現を増強させ,上皮細胞間の結合を強固にし,物理的な生体防御機構を発揮することを見出した.
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