顎関節症患者(顎関節内障および変形性顎関節症)からの採取試料(滑液および滑膜組織)を対象とした幅広い生化学的研究(滑液微量解析および免疫組織化学的解析:蛋白、炎症性サイトカイン、発痛物質、造骨破骨物質)の一環研究として下記について遂行した。40例の患者滑液を希釈回収しPCR法による細菌DNA研究を開始したが、23関節(57.5%)において11種の細菌を検出し、とくに90%の変形性顎関節症患者で細菌が検出同定され、45歳以上の高齢者に多く同定される傾向を示した。また、滑液中蛋白およびサイトカイン濃度との正の相関が得られた。 細菌陽性群と細菌陰性群の滑液中における炎症性サイトカインおよび蛋白質分解酵素を測定し比較検討したところ、細菌陽性群では、蛋白およびサイトカイン濃度が有意に高値であり亢進した炎症反応の存在が示唆された。さらに化膿性顎関節炎が強く示唆された3例において、菌検査が陰性で否定されたが、同時に施行した滑液のDNA解析では炎症性サイトカインの著明上昇とともに細菌陽性が確認されたことから、通法の菌検査では同定困難なレベルの感染が顎関節症の増悪因子として存在することが示唆された。 これらの結果は、関節内に存在する細菌が炎症反応を増幅させ、病態進行へ多大に関与する事を示す極めて有意義なものであるが、以上より、本研究が顎関節症研究の新たな展開をもたらすと同時に、病態解明と治療法開発に多大に貢献するものと考えられた。今後継続すべき研究項目として下記が挙げられる。 今後、症例を追加して滑液解析を継続するが、保存療法無効で顎関節円板切除術を施行した10例の顎関節症患者から滑膜組織を採取し、精製DNAのクローニング、プラスミドDNAを抽出する。なお習慣性顎関節脱臼患者5例の滑液滑膜をコントロール群とする。
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