研究概要 |
口腔癌に対して、放射線、5-FU系経口抗癌剤およびOK-432の同時併用療法が有効であることを報告してきた。IFN-γ,IL-12等のTh1サイトカインが抗腫瘍免疫反応の増強に働き、IL-10等のTh2サイトカインおよびTGF-βは抑制的に働くことが知られている。平成22年度の研究成果より、ヒト末梢血単核球(PBMC)においてX線照射および5-FUが抑制系サイトカインの産生を制御することにより抗腫瘍免疫増強作用を示すことが明らかになった。平成23年度は、主として樹状細胞(DC)に及ぼす化学療法剤(5-FU,CDDP,docetaxe1(DTX),gemcitabine(GEM)等)の影響について検討した。末梢血単球をGM-CSFおよびIL-4存在下で6日間培養し未熟DCを誘導後OK-432を添加し成熟DCを誘導した後、各種化学療法剤で24時間処理し、各種DC表面マーカー、サイトカイン産生、免疫制御因子を検索した。DCは免疫抑制に働くPD1,PD-Ll,CTLA4などを発現しておりOK-432で成熟させると、PD-L1,CTLA4,SOCS1,2,3などのnegative regulatorの発現が上昇することが明らかになった。これは一種のnegative feedback機構であると考えられる。化学療法剤の中で5-FUおよびDTXはこれらの免疫制御分子の発現を抑制した。このことは成熟DCに抗原をパルスして投与するDCワクチン療法と化学療法の併用を考えた時に極めて重要な知見である。5-FUおよびDTXで処理したDCは未処理DCに比較してより強くアロT細胞を刺激し、アロ抗原特異的なIFN-γ産生を誘導した。動物実験は既に開始し観察中である。 一方、口腔癌細胞株をGEMあるいはDTXで処理することにより癌抗原WT1mRNAおよびタンパクに発現が上昇した。この時のWTlタンパクの局在を蛍光抗体法で確認したところ、WT1タンパクの核移行が妨げられ、ほとんどが細胞質に蓄積していることが明らかになった。この現象はプロテアソームによるWT1抗原ペプチドの産生が促進され、抗原性上昇の可能性が示唆された。このことも、化学療法併用WT1抗原パルスDCワクチンのプロトコールを検討する上で有意義な知見であると考えられた。
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