研究概要 |
細胞間接着に重要な働きを持つβcateninを制御する遺伝子群を調べるためにパスウェイ解析により、遺伝子ネットワークを同定し、このうちKCNJ2-Lin7C-CASK-βcateninネットワークに注目した。しかし、βcateninおよび遺伝子ネットワーク上でその上流に位置するCASK遺伝子、Lin7C遺伝子に注目して作用薬剤を検索したが発見できなかった。そこで、Lin7Cの発現を抑制する遺伝子であるKCNJ2遺伝子に着目した。siRNAの導入によりKCNJ2の発現を抑制したところ、βcatenin遺伝子の発現が増強することをRT-PCR法とWestern blotting法によりmRNAおよびタンパクレベルで確認した。さらに、KCNJ2遺伝子に作用する薬剤としてamiodarone, nicorandilをデータベース上で同定した。これらは、既に臨床応用されている薬物である。SAS-H1細胞株に濃度の異なるamiodaroneを作用させたところ、50mMのamiodaroneにてLin7Cとβcateninの約1.6倍の発現増加が見られた。薬剤添加培養下にin vitroにて、Wound Healing Test,Invasion assayを行ったところ、薬剤添加による浸潤能の抑制を認めた。KCNJ2作用薬であるnicorandilについて同様の実験を行い、薬剤添加によるLin7Cとβcateninの発現に差は認めなかった。 以上、細胞接着因子関連遺伝子群としてKCNJ2-Lin7C-CASK-βcateninネットワークを同定した。βcateninの上流に位置するKCNJ2遺伝子を発現抑制すると、結果的にβcateninの発現が増加し、amiodaroneによりその発現が増強されることから、癌細胞間の接着能を高め、癌細胞の転移や浸潤抑制に関連していることが示唆された。
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