研究概要 |
近年、顎骨再生医療(再建治療)は長足の進歩を遂げ、以前は困難とされていた下顎において大きな骨欠損でも本来の形態に近似した骨を再建することが可能となっている。しかし、関節軟骨を再生する手法が確立されていないため、今日においてもなお、顎関節を含む下顎頭欠損例の再建治療は極めて困難である。顎関節の再建では、線維軟骨を再生することにより、本来の下顎窩、関節頭を形成しなければならない。本研究では、軟骨としての性質を保ちながら効率よく細胞を増殖しうる細胞培養法と、脱分化により部分的に失われた軟骨形質を回復する再分化誘導法を開発し、近い将来における顎関節領域での臨床応用を目指した再生軟骨の作製と軟骨生物学に関する基礎研究を主たる目的とする。 本年度は軟骨細胞の増殖および分化を制御する細胞内情報伝達機構に着目し、脂質性二次メッセンジャー・ジアシルグリセロール(DG)の代謝酵素DGキナーゼ(DGK)の発現を検討した。軟骨細胞としての性質を内在するATDC5細胞は、培養系において増殖および軟骨細胞への分化誘導が可能な細胞系であり、軟骨の研究によく用いられる。これまでの研究により、DGKは複数のアイソザイムから構成され、各々が特有の細胞現象に関与することが明らかにされていることから、まず、ATDC5細胞におけるDGKアイソザイムの発現様式を解析した。DME/F12培地を用いて培養したATDC5細胞から全RNAを抽出し、DGKアイソザイムの発現をRT-PCR法により検討したところ、8種類のDGKアイソザイムの内、DGKδ,DGKε,DGKζ,DGKθの4種類の発現が認められた。今後、軟骨細胞への分化誘導におけるDGKアイソザイムの発現変化および各アイソザイムのsiRNAを用いたノックダウンによる増殖・分化への影響等を精査する予定である。
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