近年顎骨再生医療(再建治療)は長足の進歩を遂げ、以前は困難とされていた下顎においてかなり大きな骨欠損でも本来の形態に近似した骨を再建することが可能となっている。しかし、関節軟骨を再生する手法が確立されていないため、顎関節を含む下顎頭欠損例の再建治療は極めて困難である。そこで本研究では、耳介軟骨を用いて軟骨としての性質を保ちながら効率良く細胞を増殖しうる細胞培養法と、脱分化により部分的に失われた軟骨形質を回復する再分化誘導法を開発し、近い将来における顎関節領域での臨床応用を目指した再生軟骨の作成と軟骨生物学に関する基礎的研究を推進することを目的とする。 本年度は、脂質性二次メッセンジャー代謝酵素ジアシルグリセロールキナーゼ(DGK)アイソザイムのうち、軟骨芽細胞のモデル細胞株と考えられるATDC5細胞に最も高い発現が認められるDGKζについて検討を行った。ATDC5細胞をインスリン添加培地で28日間培養し、DGKζを RT-PCRで検討した結果、DGKζの mRNA 発現は経時的に減少することが明らかとなった。さらにWestern Blot で検討した結果DGKζタンパクは分化刺激後7日目に最も高い発現を認め、その後減少することが明らかとなった。また、軟骨細胞への分化誘導における DGKζタンパクの機能を検討するために、ATDC5細胞にレトロウイルスベクターを用いたDGKζ安定発現細胞株を作製した。今後、DGKζ過剰発現およびDGKζのsiRNA を用いたノックダウンによる増殖・分化への影響を精査する予定である。
|