Shhの転写を時空間特異的に調節する配列のうちMFCS4は、口腔と咽頭の発生時期に活性を発揮する。MFCS4とShhをヘテロ欠失させたマウス(Shh+/-MFCS4-/+マウス)は、口蓋裂を表現型に持つ。口蓋の発生過程では、舌は変形や上下運動により、舌の両側にある口蓋突起が舌の上に挙上するよう促し、これと口蓋突起自身の挙上しようとする力との協調でE13.50-14.00の間に口蓋突起が挙上する。これまでの研究で上記Shh+/-MFCS4-/+マウスでは挙上を促す舌の働きが不足していることが示唆されているので、舌の発生異常を焦点に研究を行った。舌の変形は内舌筋が、舌の上下運動はオトガイ舌筋がそれぞれ担う。筋芽細胞は舌前駆体へ遊走する際上記各舌筋の予定領域に区分けされながら遊走するが、Shh+/-MFCS4-/+マウスではE11.75で筋芽細胞の分布は区分けが不明瞭であった。また、E13.75で、舌筋の配列は非対称で整然とせず各内舌筋の同定が難しい状態であった。内舌筋は舌上皮基底膜直下の結合組織層の間または結合組織層と舌中隔との間を走向するが、Shh+/-MFCS4-/+マウスでは、基底膜は不連続で平坦で波打ち状の構造が認められなかった。舌中隔も連続性が失われ部分欠損していたので、これが舌筋の配列が乱れる原因と考えられた。一方、in situ hybridizationにより、Shhは舌上皮に、その受容体であるPtcは上皮とその直下の結合組織層とほぼ一致する深さに、標的遺伝子発現にかかわるGli1はさらに舌の中深くにまで発現がみられた。これまでに、基底膜の主たる構成成分であるLamininや、腱の発生に中心的な役割のある転写因子Sox9がShhの制御下にあることが知られているので、基底膜と舌中隔の形成不全について、分子シグナルと組織表現型の間に整合性のとれる可能性を見いだせた。
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