片頭痛は人口の10%近くが罹患する疾患であり、発作の際には激烈な拍動性頭痛、悪心・嘔吐などが起こり、患者のQOLは著しく損なわれる。また、発作中には歯痛や顔面痛を伴うことがあるため、患者が歯科を受診する場合も多い。片頭痛の発生機序にはCortical Spreading Depression (CSD、大脳皮質拡延性抑制)が大きく関わっているといわれており、このCSDが三叉神経第1枝を介して三叉神経脊髄路核を活性化することで痛みを引き起こしているのではないかと考えられている。これらのことより、慢性口腔顔面痛の痛みの一次中継核でもある三叉神経脊髄路核の感作が、片頭痛の発生に深く関与している可能性が推測される。本研究の目的は、片頭痛動物モデルを用いて、慢性痛によって三叉神経系を感作した場合の三叉神経系の活性化の変化等を検討することで、片頭痛発症機序および増悪因子としての三叉神経系感作の影響を明らかにすることである。 今年度は、片頭痛モデルの一つであるカプサイシン硬膜刺激モデルを用いて、眼窩下神経結紮(IoN-CCI)による第2枝への慢性刺激が第1枝も感作するかを免疫組織化学的手法を用いて検討した。その結果、三叉神経脊髄路核尾側亜核において、IoN-CCI+カプサイシン硬膜刺激群ではobexから尾側へ1440μmにかけて、痛覚伝達に関係するERKのリン酸化がIoN-CCI群、カプサイシン硬膜刺激群と比較して有意に増加していた。このことより、第2枝の感作が第1枝の活性化に影響を与えると考えられ、三叉神経系感作が片頭痛発症の増悪因子となりうる可能性が示唆された。 今後は、もう一つの片頭痛モデルであるCSDモデルを用いて、同様の検討を行う予定である。
|