研究概要 |
口腔内は歯周病や智歯周囲炎など,炎症が容易に惹起される環境にある。炎症は視床下部-下垂体-副腎皮質系(HPA axis)を活性化させることから,口腔内の炎症においても同じようにHPA axisが活性化されることが考えられる。われわれは昨年までに,歯周病モデルラットと口腔内へのLPS投与による急性炎症モデルラットを用いて,口腔内の炎症とHPA axisの関係を調べてきた。その結果,LPSの投与によって血液中のcorticosteroneのレベルは上昇し,口腔内の炎症によりHPA axisが活性化されることが示唆された。しかし,視床下部でのCRH(corticotropine releasing hormone)の反応を確認することができなかった。そこで,平成23年度はLPSを基底膜マトリックス(BD Matrigel)に混和し,口腔内へ投与した。これによりLPSは投与後血行に乗って消失することなく,慢性的な炎症を口腔内へ成立させることが可能となった。そして,視床下部室傍核での遺伝子発現を正確に評価するため,in situ hybridization(ISH)によりCRH mRNAを調べることとした。その結果,LPSを含んだ基底膜マトリックスには炎症細胞が入り込み,限局した口腔内炎症を惹起することができた。さらにin situ hybridizationにより視床下部室傍核でCRH mRNAが増加していた。この結果から,口腔内の炎症反応によって視床下部室傍核と血液中副腎皮質ステロイドが反応することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は口腔内の炎症モデルを用いてHPA-axisの反応を調べることが主たる研究となっているが,当初は絹糸をラットの臼歯周囲にうめるという手法を用い,HPA-axisの反応はリアルタイムPCRによって調べることを計画した。ところが絹糸による歯周病モデルでは,炎症が軽微でHPA-axisを活性化させるには不十分であった。またその後用いたLPSの口腔内投与では強い反応を惹起するものの,LPSが血行によって運ばれてしまうという問題に答えることができなかった。今年度はマトリゲルを用いて口腔内に限局した炎症を惹起することに成功し,またISHによりCRH mRNAの評価も可能となった。このように口腔内炎症モデルを確立することと,正確な視床下部室傍核の評価を求めたことがやや遅れた理由である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の根幹は炎症反応とそのコントロールである。今年度までの研究により,いわゆる歯周病モデルでは視床下部室傍核での明らかな反応を検知することができなかった。一方で,計画では炎症反応を軽減するための方法として,埋め込んだ絹糸を除去することを提示しているが,現在の炎症モデルでは絹糸を用いないため,この方法は使えない。そこで根幹となる炎症とそのコントロールは変更することなく,炎症をLPSによる急性炎症モデルとして,明確な炎症を惹起し,それをコントロールするための方法を静脈麻酔薬の投与と変更する。評価方法となるHPA-axisの反応と脳内サイトカインについては,従来の計画通り実験を進める予定である。
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