マウス多能性骨髄間質細胞からシュワン細胞への分化誘導条件について検討した結果、還元剤であるβ-メルカプトエタノールによる24時間前処理およびαMEM培地へのレチノイン酸(all-trans-retinoic acid)の添加による前処置を省くことによって、forskolin(FSK)、basic-FGF、血小板由来成長因子-AA(PDGF)およびheregulin-β1(HRG)による骨髄間質細胞からシュワン細胞への分化誘導効率が上昇した。 この条件によってマウス多能性骨髄間質細胞から分化誘導したシュワン細胞に対して、麻酔薬を作用させその影響について検討した。その結果、全身麻酔薬であるプロポフォールは、50 μMの濃度においてシュワン細胞の増殖を軽度抑制し、500 μMの濃度ではシュワン細胞をほぼ100%近く死滅させた。一方、同じ全身麻酔薬であるケタミンは、10~100 μMの濃度においてシュワン細胞の増殖にはほとんど影響を及ばさなかった。また、局所麻酔薬であるリドカインについて検討した結果、2 μMから50 μMの濃度ではほとんど影響がなかったものの、2 mM以上の濃度ではほぼ完全にシュワン細胞を死滅させた。以上の結果から、全身麻酔薬プロポフォールおよび局所麻酔薬リドカインは、骨髄間質細胞から分化誘導したシュワン細胞の増殖に抑制的に作用することが明らかとなった。今後、骨髄間質細胞から分化誘導したシュワン細胞を用いた末梢神経再生治療において麻酔薬(プロポフォール、リドカイン)を用いる場合にはその抑制作用に注意する必要があることが示唆された。
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