研究概要 |
一般に口腔顎顔面領域の手術では確実な気道確保のために気管挿管が行われる。しかし、手術中の頭位変化、開口器の装着、舌圧子の挿入などにより気管チューブが深く挿入されるとチューブの先端が気管分岐部を越えて片肺挿管になる危険性がある。このような術中の片肺挿管を知る方法として聴診器による呼吸音の聴取が最も一般的に行われているが、呼吸音が均等に聴取されたにもかかわらず、実際には片肺挿管になっていたとの報告もあり、気管チューブの位置決定における呼吸音の変化については疑問が残されている。そこで、われわれは、呼吸音の変化は気管チューブ先端の形状により異なるのではないかとの仮説を立て、呼吸音変化時の気管チューブ先端の位置について気管支ファイバースコープを用いて検索した。 全身麻酔下にて口蓋形成術が予定された幼児を対象として、Murphy eyeの設置されていないカフなしの気管チューブ(Portex tube, ID4.5mm)とMurphy eyeが両側に設置されているカフなしの気管チューブ(RAE tube, ID4.5mm)を用いて、呼吸音変化時と呼吸音消失時における気管チューブ先端の位置を比較した。 その結果、Murphy eyeのないチューブでは先端が気管分岐部を越えて右側主気管支に約7mm挿入されたときに呼吸音が変化し、約16mm挿入されたときに呼吸音が消失した。一方、double Murphy eyeチューブでは先端が右側主気管支に約15mm挿入されたときに呼吸音が変化し、約48mm挿入されたときに呼吸音が消失した。このことからカフなしのdouble Murphy eyeチューブは、Murphy eyeの付いていないチューブに比べて、聴診器では認識できない片肺挿管(unrecognized bronchial intubation)が起こりやすいことが示唆された。
|