研究概要 |
Propofolは,調節性に優れた静脈麻酔薬であり,全身麻酔の導入・維持や静脈内鎮静法に頻用されている。既に,propofolのGABA A受容体に対する作用によって鎮静効果を発揮されることが知られている。一方,侵害刺激に対して鎮痛効果がないとする報告(Nicol et al.,1991;Kubota et al.,2007;Shoda et al.,2009)と,鎮痛効果があるとする報告(Anker-Moller et al.,1991;Jewett et al.,1992)が混在し,propofolの鎮痛作用については未だ定説を見ない。 研究代表者は,痛みの高次中枢であると考えられている大脳皮質島領野(島皮質)に焦点を当て,島皮質における興奮性神経伝達および抑制性神経伝達に対するpropofolの修飾作用を明らかにする目的として研究を進めてきた。方法としては,島皮質を含むラット脳スライス標本を作製し,興奮性細胞と抑制性細胞からのホールセル・パッチクランプ記録を行い,抑制性シナプス後電流(uIPSC)の解析を行った。その結果,propofol(10μM)灌流投与により興奮性細胞と抑制性細胞の両方において,uIPSCの持続時間の延長が観察された。また,抑制性細胞のなかには自分自身に投射して自己抑制をおこなうもの(autapse)があり,propofol(10μM)灌流投与は,autapseによる抑制性シナプス後電流に対しても持続時間を延長させた。Autapseは活動電位の発生のタイミングを同期させるとの報告(Bacci and Huguenard, 2006)があることから,これらの結果からpropofolは抑制性細胞の活動を同期させて鎮静作用を発揮している可能性が考えられる。
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