現在までに音楽を聴いている時は痛みの認知程度が低下する事が証明されているため、本研究は音楽がどの程度疼痛閾値を変化すさせるか、またその時脳内帯状回の神経活動を調べた。被験者35名を対象に、被験者の前腕内側と足首内側に双極電極を貼り知覚・痛覚定量分析装置(Pain Vision PS-2100N: Nipro)を用いて知覚閾値と疼痛閾値を測定した(無条件時)。また口腔内用の電極を舌・頬粘膜・上顎歯肉・下顎歯肉に置き、上記と同様に疼痛閾値を測定した(無条件時)。測定は各3回ずつ、2種類の音楽(ポップス・バラード)をヘッドフォンから流し、各音楽を聴いている時の上記の各部位における知覚閾値と疼痛閾値を測定し比較検討した。被験者6名を対象に、Pain Visionで足首内側に80μAで侵害刺激を与えた時の脳内神経活動部位(帯状回)を機能的磁気共鳴装置(fMRI)で調べ、無条件時と音楽(ポップス)を聴いている時で比較した。 前腕、足首、舌、頬粘膜、上顎歯肉、下顎歯肉の疼痛閾値(平均値±SD)は、それぞれ33.6±25.4、37.0±27.4、28.5±24.9、38.9±28.5、16.8±8.8、15.0±10.7μAであり、上下顎歯肉の疼痛閾値は前腕、足首、舌、頬粘膜に対して有意差が認められた(P <0.05:Dunnett test)。無条件時、ポップスを聴く、バラードを聴く時の前腕での知覚閾値と足首の疼痛閾値では、無条件時とバラードを聴く時の間に有意差が認められた(P <0.05:Dunnett test)。fMRIでは、3名の被験者において音楽を聴いている時の帯状回での神経活動に減弱が認められた。 これらの結果より音楽を聴くことは知覚閾値や痛覚閾値に影響を及ぼし、音楽を聴くことは痛覚伝導系に抑制作用を与える可能性のある事が示唆された。
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