ヒト乳歯は複雑な乳歯根管系により永久歯と比較して十分な根管治療が不可能とされている。しかし、乳歯の存在は、健全な口腔の成長発育において極めて重要であり、乳歯保存のために行う根管治療の精度の向上が、小児歯科臨床において大きな目標である。乳歯の根管治療において、側枝、副根管の存在や根管形態による根管拡大の制限、根管拡大時に生じる根管壁のスメア層の存在、生理的歯根吸収が生じることなどが、理想的な根管治療の妨げになっているのが現状である。 このような背景の中で、本研究は、乳歯根管治療における最も有効な根管洗浄法の確立を目的とした。試料はヒト抜去乳歯(歯根が残存しているもの)を用いた。各種根管洗浄薬剤の効果、ならびに従来型のシリンジのみを使用する洗浄方法と超音波を用いた洗浄方法の効果の違いを、根管壁のスメア層の除去に関わる象牙細管の開口度を指標に検索した。また、各種根管洗浄法によって処理された根管内に水酸化カルシウム製剤を満たし(根管充填)、水酸化カルシウム製剤によるアルカリ性の歯根外表面への拡散状況について観察した。 以上の研究により、ヒト乳歯においては、次亜塩素酸ナトリウムを根管内に満たし、超音波洗浄を30秒行う方法が、スメア層の確実な除去および高い象牙細管の開口度の獲得に最適であり、もっとも効果的な根管洗浄方法であることが示された。また、この根管洗浄法により、歯根外表面への水酸化カルシウム製剤によるアルカリ性の拡散が有効に生じることが観察された。 ヒト乳歯根管治療における最も有効な根管洗浄法は、次亜塩素酸ナトリウムと超音波を使用した洗浄であることを、本研究は示すことができた。
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