【目的】通常の局所麻酔薬は容易に細胞膜を通過し、痛覚以外にも作用し不快な痺れや麻痺が起こる。近年、Binshtokらは細胞膜を通過できない局所麻酔薬QX-314とカプサイシン(CAP:TRPV1アゴニスト)を用いて痛覚のみを選択的に抑制した。しかし、その方法にはCAP自身が痛みを引き起こすという問題が存在する。本研究の目的はCAPに代わる薬剤を見つけることである。本年度はTRPA1やTRPM8を用いてもQX-314による麻酔作用が現われるかどうかを検討した。 【具体的内容】《動物行動学的方法》投与薬剤にTRPV1、TRPA1、TRPM8のアゴニストであるCAP、アリルイソチオシアネート、メンソール(MEN)を用いた。動物を4群に分け後ろ足の足底部にアゴニストとQX-314の混合液、アゴニスト単独、QX-314液単独および溶媒のみを投与した。侵害熱刺激は赤外線照射、機械的刺激はvon Freyフィラメントを用いて測定した。《電気生理学的方法》後根神経節の細胞を用いパッチクランプ法でナトリウムチャネルの電流を記録した。TRPV1陽性細胞およびTRPA1陽性細胞に混合液を15分間投与し、投与前後のナトリウムチャネルの電流を比較した。 【意義と重要性】侵害熱刺激のTRPV1の実験群では、QX-314との混合液群に麻酔効果が見られた。また、混合液群とCAP単独群の間にも有意差が認められた。TRPM8の実験群では、混合液群とMAN単独群に麻酔効果が見られた。一方、TRPA1の実験群では麻酔効果が見られなかった。機械的刺激の実験群では全てに麻酔効果は見られなかった。電気生理学的方法では、TRPV1陽性細胞のみ電流が抑制された。以上のことから、QX-314を痛覚感知ニューロンに送り込むためには、TRPV1を利用した方がよいことがわかった。また、その麻酔効果は侵害熱刺激に対してのみ有効であった。
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