矯正治療において、ブラケットとアーチワイヤー間の摩擦抵抗やバインディングは、治療期間の長さに影響するため重要な因子である。本研究の目的は、複雑な三次元形状を有する矯正用ブラケットと矯正用ワイヤーの表面にプラズマビームイオン注入法によりDLC(Diamond-Like-Carbon)を成膜し、DLC膜の矯正装置への応用を検討することである。平成22年度においては、2種類の矯正用ワイヤー(Ni-Tiワイヤー、ステンレス鋼ワイヤー)にDLCの成膜を試み、DLC膜表面の原子間力顕微鏡観察、ナノインデンテーション試験およびDLCを成膜した矯正用ワイヤーの摩擦試験を行った。その結果、成膜したDLCの表面はコントロール試料と同様の表面形状を示し、DLC表面の荒さ値はコントロール試料と同レベルの値を示した。ナノインデンテーション試験では、DLC膜がコントロール試料と比較して、有意に高い硬さを示した。ステンレス鋼ワイヤーに成膜したDLC層は、コントロール試料と比較して有意に低い弾性係数を示した。市販ブラケットとの摩擦試験においては、DLCを成膜したワイヤーがコントロール試料と比較して有意に低い摩擦特性を示した。以上の結果から、プラズマビームイオン注入法によるDLC成膜は、矯正用ワイヤーの摩擦特性を改善することに有効な手法であることが考えられた。同手法の矯正用ブラケットへの応用も摩擦特性の改善に有効であるものと示唆された。
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