研究概要 |
脱落し廃棄される乳歯の歯髄や歯根膜にも間葉系幹細胞の存在が報告されている。小児歯科医療の現場において、患者自身から採取され廃棄される抜去歯から細胞を分離し必要な際に利用可能であれば、倫理的・免疫学的・安全性の問題を回避でき、さらに経済的にも安価な再生医療の資源になり得ると考えられる。しかし歯由来の間葉系幹細胞から各種細胞への分化制御機構については詳しく知られていない。 そこで再生医学研究の実験材料を作る目的で、ヒト乳歯歯根膜細胞へhTERT遺伝子の導入により不死化細胞株の樹立を行った。遺伝子導入後、シングセルクローニングを行い、SH9,10,11の3株の分離を行った。その後細胞倍化指数(PDs)は80PDs以上を越え、Hayflickの限界の50PDsを越えて増殖していることから不死化していると考えられた。全ての細胞株で歯根膜のマーカーと考えられるscleraxis, periostin, CP-23, TeMの遺伝子を発現していた。さらに骨芽細胞への分化能について検討した結果、全ての細胞株で骨芽細胞のマーカーであるRUNX2, osterix, osteocalcin, osteonectin, collagen typela, ALP, PTHRを発現していた。またSH9株のみがvon Kossa染色陽性の石灰化結節を形成した。しかしSH10, 11株は多層化はするが石灰化しなかった。以上のことから、SH9株は右灰化能を持つが、SH10, 11株は石灰化能を持たない細胞株と考えられた。乳歯の歯根膜細胞の不死化細胞株の樹立は、今後の再生医学研究に非常に有用であると考えられる。
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