申請者らは矯正力(メカニカルストレス;MS)による歯槽骨リモデリングの分子メカニズムをin vitroの系で検討している。矯正力による歯槽骨吸収において歯根膜細胞や骨芽細胞の役割分担を解明するために、矯正治療患者の抜去歯から採取した歯根膜を培養しヒト歯根膜細胞を得た。また、矯正用ミニインプラント埋入前のドリリング時に得られた歯槽骨を培養し歯槽骨骨芽細胞を得た。歯槽骨骨芽細胞は採取量が微量で実験に供する十分な量が得られていないため、現在はヒト正常細胞を購入して用いている。歯根膜細胞を一定数培養皿に播種し、細胞に2.0g/cm^2になるよう錘を載せ24時間荷重を加えると、COX-2遺伝子発現は全症例で顕著に亢進したが、RANKLは1症例で軽度に亢進しただけであり、MSで刺激した歯根膜裁細胞のRANKLを介した破骨細胞形成能は弱いと考えられた。 そこでCOX-2を介して産生されるPGE_2(濃度10^<-5>から10^<-11>)を24時間、ヒト歯根膜細胞とヒト正常骨芽細胞に添加してRANKLの遺伝子発現を検討したところ、MSと同様に歯根膜細胞ではほとんどRANKL発現は見られなかったが、骨芽細胞では顕著に発現が亢進していた。さらに24時間PGE_2を添加後、新培養液に交換し、破骨前駆細胞(RAW264.7)を両細胞と共培養すると、歯根膜細胞との共培養では破骨細胞様細胞形成はわずかであったが、骨芽細胞との共培養では歯根膜細胞に比べ5倍の破骨細胞様細胞が形成されていた。さらにsmall interfering RANKLを導入したヒト骨芽細胞との共培養では、破骨細胞様細胞形成能は失われていた。このことからMSを受けた歯根膜細胞の破骨細胞形成能は弱く、歯根膜細胞の産生したPGE_2が骨芽細胞を刺激し、RANKL発現を介して破骨細胞形成を促進すると考えられた。
|