歯周組織の再生は歯周治療の大きな目標の1つである。既存の歯周再生療法は適応症が限られるため、新たな治療法の開発が望まれている。間葉系幹細胞(以下、MSCと略す)シートは、MSCの持つ自己複製能と多分化能から、歯周再生療法に有用な移植材と考えられる。移植効果を高めるためには、細胞を多層性に高密度に増殖させる必要があるが、MSCの多層化増殖を促進する因子については不明な点が多い。そこで本研究では、細胞高密度化MSCシートを作製するために、コンフルエンスなMSCをさらに増殖させて多層化シートを作製する条件を調べた。 実験にはコンフルエントな健常ヒト骨髄由来MSCを用い、これを TGF-β1、アスコルビン酸R、ROCK阻害剤Y-27632およびウシ胎児血清を添加した培地で培養した。細胞数をニュートラルレッドの取り込みで,増殖をBrdUの取り込みで解析した結果、MSCシートは増殖を続け、多層化した。また、TGF-β1を添加することで接着斑の形成は抑制され、シートの収縮や剥離もみられなかった。多層化MSCシート形成後の細胞は、CD29、CD44、CD105、CD166陽性で、 CD14、CD34、CD45陰性であり、間葉系幹細胞のマーカーを発現していた。また、この細胞を分化誘導培地で培養したところ、骨芽細胞系と脂肪細胞系の2つの系統の細胞に分化させることができた。これらのことから今回我々の作成した多層化シートに存在する細胞は、多分化能を維持していたと考えられる。 今回の研究成果は、効率的な多層性MSCシート移植材の作製と、今後のMSCを利用した歯周再生療法の開発にとって意義深い。
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