研究概要 |
研究内容 申請書の「研究実施計画」通りには進まなかったが,「研究目的」に確実に近づいている.以下に具体的な研究内容を述べる. 1.カルシウム(Ca)拮抗薬であるニフェジピンによる歯肉増殖症に密接に関与している細胞内カルシウム濃度 ([Ca2+]i)の上昇メカニズムについてより詳細に検討した.その結果,ニフェジピンは歯肉線維芽細胞表面のカルシウム感知受容体(CaSR)に作用し,細胞内シグナル伝達により細胞内CaストアからのCa遊離および非特異的陽イオンチャネル(NSCC)からのCa流入を促進している可能性が考えられた.その根拠はCaSRアゴニスト(ゲンタマイシン,ネオマイシン,スペルミン等)により[Ca2+]iは上昇し,一方そのアンタゴニスト(NPS2390)はゲンタマイシンだけでなくニフェジピンによる[Ca2+]iの上昇をも抑制したことによる. 2.これまでCa流入機構として想定していたNSCCが,その実体は細胞増殖にも関与しているtransient receptor potential(TRP)V1チャネルである可能性が高まった.この推論はTRPV1チャネルアゴニスト(カプサイシン,レシニフェラトキシン,オルバニル)は[Ca2+]iを上昇させ,そのアンタゴニスト(カプサゼピン,ヨードレシニフェラトキシン,ルテニウムレッド等)はニフェジピンによる[Ca2+]i上昇を抑制した結果に基づく. 3.抗てんかん薬であるフェニトインの歯肉増殖症のメカニズムについて調べるために[Ca2+]iに対する作用を調べた.フェニトインもニフェジピンと同様に[Ca2+]iを上昇させた.このことから作用機序もニフェジピンと類似していることが推察された.その根拠はフェニトインによる[Ca2+]iの上昇に対してCaSRアンタゴニストが抑制的作用を示したこと,更にフォスフォリパーゼCインヒビター(U73122)により[Ca2+]i上昇が抑えられたことからイノシトール三リン酸感受性の細胞内CaストアからのCa2+遊離も[Ca2+]i上昇に関与していることが考えられる. 意義 Ca拮抗薬による歯肉増殖症の発症メカニズムがより詳細に明らかになることにより,その治療法の選択幅が広がり,副作用が最も少ない治療薬の開発に貢献できる. 重要性 Ca拮抗薬は即効性のために高血圧症に繁用され,歯肉増殖症を併発する患者も多い.その意味で歯肉増殖症治療薬の開発に一歩近づいたことはその患者だけでなく,外科的切除を行っていた医師にとっても負担軽減が期待できる.
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