高齢者では様々な要因によって唾液分泌の減少など口腔内の問題が生じることが多く、歯科衛生士による専門的口腔ケアが重要である。その有用性を客観的に評価するために、今年度は、口腔乾燥感などの問題を自覚している地域自立高齢者を対象として、2週に1回の頻度で3ヵ月にわたる歯科衛生士による口腔健康教育を行い、介入前後で、唾液分泌量、ストレス指標とされる唾液アミラーゼ活性、粘膜免疫を担う分泌型IgA(sIgA)の唾液中濃度および味覚閾値等を測定し、介入の効果について検討した。介入内容は、口腔の機能に関する講義および口腔清掃指導、唾液腺マッサージ、舌体操および発音練習等とした。一方、非介入群は、口腔の健康に関するパンフレットと口腔清掃用品の配布のみとし、同様に評価を行った。その結果、介入群では、安静時唾液分泌量が有意に増加し、苦味閾値が有意に低下したのに対し、非介入群ではこのような変化は認められなかった。また、塩味、酸味に対する閾値で介入による有意な低下は認められなかったが、非介入群では閾値上昇がみられたことから、これらの味についても一定効果があったと考えられる。ストレスマーカーとされる唾液中アミラーゼ活性については、介入群、非介入群とも有意な変動はみられなかった。同時に測定した自律神経活動においても、両群ともに交感神経活動の低下はみられず、ストレス状態に大きな変化は認められなかった。また唾液中のsIgAの濃度についても、介入による変化は認められなかった。事後に口腔内カンジダ陽性者が増加したことを考慮すると、介入期間後半が夏の暑い時期であったため、高齢者の全身状態の低下やストレスの上昇が生じ、心身の状態の指標に有意な改善効果が認められなかった可能性がある。しかし、安静時唾液量の増加や味覚感受性の上昇など介入群では口腔機能の改善が認められ、歯科衛生士による健康教育介入の有効性が示唆された。
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