研究概要 |
対称ジスルフィドである5,5’-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)とチオール類との反応性を利用し、チオール-ジスルフィド交換反応によって生成する5-チオ-2-ニトロ安息香酸を412 nm付近の可視吸収スペクトルにより検出するチオール類の比色定量法は、エルマン法として知られている。前年度までに、1分子の母核ジスルフィド化合物にエステル結合を介して2分子のピレン構造を導入した誘導体(化合物A)を合成したが、チオール-ジスルフィド交換反応に用いる塩基性条件下において分解が認められた。そこで、エステル結合をエーテル結合に変換することで、同条件おいても安定な新規誘導体(化合物B)を合成した。さらに、高感度なチオール捕捉標識反応剤の開発を目的に鎖状のピレン残基を含有した新規環状ジスルフィド誘導体(モノマー蛍光/エキシマー蛍光スイッチング分子)の合成についても検討を加えた。 次に、化合物Bを用いるメチルメルカプタン捕捉標識反応の条件を詳細に検討した。その結果、反応容器として小型ガス吸収管を用い、1,4-ジオキサンと水の5:1混合溶媒に化合物Bを溶解し、水酸化ナトリウムによる塩基性条件下にメチルメルカプタンガスを室温にて通気したところ、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析によるメチルメルカプタン捕捉標識体(混合ジスルフィド)の検出に成功した。さらに濃度既知のメチルメルカプタンガス(332 ppb)を反応液に通気しHPLC(検出波長:345 nm)にて分析したところ、得られた混合ジスルフィドのピーク面積より算出したガス中のメチルメルカプタン濃度は365 ppbとなり、実濃度と近い値を示した。本研究で明らかにすることができた上記捕捉標識反応剤の化学構造に基き、ジスルフィド連結官能基の最適化等により、実用的な新規チオール捕捉標識剤の合成開発へ到達できるものと期待される。
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