咀嚼と脳の高次機能の関係を明らかにすることは、歯科治療がリハビリテーションとしての健康科学に位置づけできる重要な意味をもっている。そこで、高齢者に対して補綴学的な介入をして、その治療効果が高齢者の行動特徴である「行動の遅延」において注視点の移動経路でどのような変化が生じているか。また、外的な課題刺激に対して意識を向けて、注意、評価、意思決定といった情報処理をした場合どのような変化が生じるかについて、これまでのADL指標に対してさらに客観的な脳の事象関連電位(ERP)を測定して、歯科特有の咀嚼機能の回復が脳の高次機能に対してどのような影響を及ぼすかについて検討している。平成22年度は、ERPと眼球運動記録解析システムの構築を行った。ERP記録解析システムは、脳波データを購入したEEGマッピング研究用プログラムを用いて、頭皮上における等電位の変化を視覚的に瞬時に確認できるように改善した。今までは、電極単位での電位変化計測だけであったが、当システムにより脳の活動部位などを考慮した機能局在を含めた検討が可能となった。眼球運動記録システムでは、眼球運動データを購入したEMR解析プログラムを用いることにより、従来よりも詳細な注視点や運動軌跡解析を行えるようになった。これまでカメラの画角面積に応じた制限された部分のみの解析であったが、当システムにより任意に指定した眼球運動の範囲に対する解析が可能となり、より精度の高い解析が可能となった。また購入した統計解析ソフトを使用することにより、統計処理以外にも様々な解析が可能となり多面的な検討ができるようになった。以上のERPと眼球運動記録解析システムを用いて、次年度より実際的な被験者による測定を実施していく予定である。
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