患者の咀嚼機能が改善することにより、社会生活に変化がおこることを経験することがある。これは、歯科治療が単に咀嚼機能の回復のみならず高次脳機能へ影響を及ぼすことを示唆しており、歯科治療にリハビリテーションの効果があることを示している。そこで、歯科特有の咀嚼機能の回復が脳の高次機能に対してどのような影響を及ぼすかについて検討するため、高齢者に対して補綴学的な介入を行い、その治療効果が高齢者の行動特徴である「行動の遅延」や外的な課題刺激に対する「注意」「評価」「意思決定」においてどのような変化が生じるかについて、これまでのADL指標以外にもさらに客観的な脳の事象関連電位(ERP)等を測定し検討を行っている。平成24年度は、平成23年度に引き続きERP記録解析システムを使用して、義歯治療予定を含む被験者に対して義歯装着直後および安定後1ヶ月の測定し被験者数の追加を行った。被験者は、日本大学松戸歯学部付属病院に来院している患者であり、医療面接により脳に気質的疾患を有していないこと、また実験に支障がない程度の視力を有しているものとし、現在の口腔状態は、疼痛を有する歯や進行した歯周疾患がないものとした。また義歯の不具合による変化を防止するため義歯装着前後に歯科QOL検査であるGOHAIを測定し、治療後で義歯に支障を感じていないもの、また精神的なストレス指標である唾液アミラーゼ活性値を測定し、作成直後に比べ安定後1ヶ月のほうが軽減しているものを対象とした。脳波測定は視覚刺激による事象関連電位を測定した。測定の結果、脳の情報処理の一つであるパターン認知に関与すると言われるN200潜時が安定後1ヶ月に短縮傾向が認められた。情報処理時間の短縮が認められたことから情報処理能力の向上が示唆された。
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