本研究の目的は、感覚機能(視覚、聴覚、嗅覚)の刺激による環境調整が、療養中の患者のリラックス反応を導き出すという効果を検証することである。本年度は、健康成人への基礎研究において、擬似的な森林環境により感覚機能を刺激し、大脳機能・自律神経系・内分泌系への生理的反応、精神的鎮静化・緊張緩和などの精神心理的反応を明らかにすることを目的とした。 健常成人14名を対象とし、環境調整をした実験群7名、安静のみの対照群7名とした。環境の調整は、人工気候室にて温度・湿度を一定とした上で、自然環境の映像(視覚)、それに伴う自然音(聴覚)、樹木の香り(嗅覚)を用いて行った。生理的指標として脳波、心拍変動、血圧、唾液中のコルチゾール濃度、主観的指標として感情プロフィール尺度(精神的リラックス反応の評価:POMS)を実施前後に測定した。 脳波は、介入中(環境調整または安静のみ)に実験群においてβ波の減少を認め、対照群においてθ波の増加を認めた。心拍変動では、両群ともに心拍数の減少、HF成分の増加を認めた。血圧は、両群ともに変化はなかった。唾液中のコルチゾール濃度は両群ともに低下した。POMSは、実験群において「活気」が上昇し、それ以外は低下した。対照群では全ての因子が低下した。 生理的指標からは、環境を調整したことによるリラックス反応は明らかにならなかった。しかし、主観的指標の変化および実施後の「落ち着いた」「リフレッシュできた」などの反応から、気分には影響を与えているといえる。今後、データ数を増やし、環境調整の効果を明らかにしたい。
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