研究課題「話し手としての看護学生のコミュニケーション技法が聞き手の自律神経系に与える影響」について、平成22年度に実施した概要は次のとおりである。看護系大学の5校に調査依頼し、同意の得られた対象校3校に対して各大学40名ずつ計120名に対して調査を実施した。実施方法はコミュニケーションの治療的技法を用いた場面と非治療的法を用いた場面について、状況設定されたビデオをみた後に、その反応について、質問紙法[状況設定問題]を用いて評価し、感情の状態を快一不快(VAS)で測定するとともに話し手と聞き手との間の交感神経系の変動を測定した。解析はSPSS17.0Jを用いた。自由記載の分析には、WordMiner、交感神経系の測定には、MemCalcを用いた。結果、主観的評価としては、治療的技法では、癒される、気分が落ち着く等の感想、非治療的技法の場合、不快だ、嫌な気分になる等の感想が抽出された。また、ヘイズとラーソン及びアイビーのコミュニケーションに関する治療的技法と非治療的技法の項目について、治療的技法(沈黙、受容、献自、開示、一般的、順序立て等25項目、非治療的技法(保証、是認、拒否、否認、同意等19項目)を比較した。その結果、ビジュアルアナログスケール(VAS)の測定では、快度を測定したところ、平均治療的技法2.88±0.28、平均非治療的技法1.83±0.32であり、(p<0.001)の有意差を認めた。次にPOMS(感情評価)を用いた結果、緊張では治療的技法(以下、治)5.89±3.53、非治療的技法(以下、非)6.64±4、51、抑うつでは(治)6.98±4.07(非)7.48±4.88、怒りでは(治)4.90±3.41(非)5.83±4.57、活気では(治)3.05±2.96(非)2.33±3.121疲労では(治)7.19±4.39(非)7.50±5.10でそれぞれp<0.05~0.001の有意差があった。混乱では(治)8.45±3.00(非)8.15±3.11で有意差を認めなかった。以上の結果からは、治療的技法は非治療的技法よりも感情を快の方向に向かわせることが示唆された。さらに客観的評価として、学生15名に対し、治療的技法と非治療的技法の場面設定をし、ビデオによる場面設定では、治療的技法の方が肯定的評価を示し、非治療的技法を用いた学生は、相手の話し方をネガティブと評価していた(p<0.0001)。さらに実際の会話(話し手、聞き手)では、客観的指標としてのLF/HF(交感神経系)においては、治療的技法を用いた方が非治療的技法を用いた場合よりも低い傾向にあった(p<0.05)。以上のことから、治療的技法は非治療的技法を用いた場合よりも、主観的に肯定的評価(快度)が得られ、また副交感神経系では有意に活動が上昇することが示唆された。また非治療的技法を用いた場合には、交感神経系の活動が上昇する傾向にあった。
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