本研究は、病院に入院中の高齢者の治療に関する意向が、医療者の治療方針や家族の意向と一致しないような状況が生じた時に、出来るだけ高齢者の意向が反映されるよう高齢者、家族、医療者で話しあい、問題解決を目指すモデルを開発することを目的としている。研究1年目にあたる平成22年度は、アクション・リサーチの準備段階として、入院中の高齢者の意向の表出に関する実態をつかみ、倫理的問題の明確化を図ることであった。具体的には、研究協力者がいる4病院で、研究者自身が1~2ヵ月に一度開催される看護倫理研修会の講師を務め、研修会終了後に勉強会を開催した。この勉強会では、臨床で働く看護師に、高齢者を取り巻く倫理的問題があると思われる事例を具体的に提示してもらい、これをもとに検討を重ねた。その結果、高齢者が治療に関して何らかの意向をもっていると推測される場合でも、意思表示に明確さが欠ける場合には、医療者は容易に家族へその意向を確認し、治療を受ける高齢者に意見を聞いていないことに気づいていないことが明らかになった。また、家族が高齢者と異なった意見を主張する背景には、経済的な理由も大きいことが明らかになった。現在、次の段階である「意向確認シート」の作成に協力が可能な病棟、すなわち現実に生じている倫理的問題を共に検討し、実際に問題を解決していくアクション・リサーチに協力可能な病棟が決定している状況である。
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