平成24年度は、臨床経験が11~29年の9名の看護師に面接調査を実施した。その結果、患者の判断能力の状態によって関わりの難しさと背景となる要因が異なることが明らかになった。認知症や後期高齢者であるため患者本人の判断能力が低下している場合、家族の判断によって治療方針が決定され、結果的に患者に苦痛を与えながら延命する状況が見受けられた。この状況に対し、看護師は医師と家族に現在の処置が患者を苦しめていることを伝えていた。特に家族に対しては、これまでの患者との思い出話をしてもらい、何が患者にとって善いことなのかをもう一度一緒に検討しようとする様子が見られた。看護師自身もまた、自分が善いと考えていることが本当に患者にとって善いことなのかを吟味していた。背景要因として、患者の年齢に関わらず救命することに重きが置かれており、老衰という概念が受け容れられていないという病院の風土が看護師によって指摘された。一方、患者に判断能力がある場合、患者が手術しないことを決断し、看護師がその決断は早計であると考えていたとしても、それを患者に伝えるだけの信頼関係が築かれないまま患者は退院することになっていた。背景要因として在院日数の短縮化が考えられた。このように看護師が倫理的問題に対しどのように取り組んでいるかが明らかになると同時に、看護師が正しいと考えている行動がとれない場合に、看護師は道徳的苦悩を体験していることが明らかになった。また、これら苦悩の体験について看護師どうしが情報を共有していないことも示された。
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