本研究の平成22年度における目的は、1)在宅で生活する高齢糖尿病患者やその介護者のインスリン療法に対する認識や不安、困難を明らかにすること、2)インスリン導入における評価指標を探索することである。 方法は、糖尿病専門クリニックにおいて既にインスリン療法を行っている65歳以上の高齢患者12名を対象に、約30分の半構造化面接を行った。男性7名(63.6%)で、平均年齢は72.5歳(SD5.4であった。内容はインスリン療法開始時の思い、インスリン注射器具・針・チップへの印象、わかりにくかった点、困った点、知っておくとよい知識や対処について尋ねた。また、承諾を得て処方内容や当日の血糖値、HbAlcなどの生化学データを収集した。さらに国内外の文献検索、および既存資料の検討と、糖尿病専門外来の看護師2名(経験年数5年以上)に高齢者へのインスリン療法指導における留意点、高齢者からのインスリン療法実施上の相談内容を尋ねた。 結果は、1)認識や不安ではインスリン注射の意味・治療の継続性への理解不足、食事や飲酒との関連性の理解と実施の不一致、治療によるストレス、専門用語の多さ・新機種への交換の対応における混乱などが挙がった。困難としては器具の不調時の対処、外出先への物品の携帯しにくさ、注射部位の確認忘れ、高血糖・低血糖時の指示理解、外出先での注射のしにくさ、自己血糖セルフモニタリングなどが挙げられた。2)国内外の先行研究はまだ少ないが、認知機能を評価するMMSE(Mini-mental-state-examination)得点が血糖コントロールと負の相関があること、基本的日常生活動作を評価するBarthel Index得点が、自己注射の可否の判断により有効との報告が得られた。看護師からは、高齢者においては(1)身体機能と認知機能、および介護状況の評価、(2)介護者と共に基本的な手技と繰り返しによる知識提供、(3)対象者の生活習慣に添った指導プログラム設定の必要性が示唆された。
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