研究概要 |
「助産事故をおこしたと認識している助産師4名の体験」「助産事故により死産し紛争に至った女性1名の体験」「助産事故後も助産師への信頼を維持している女性2名の体験」から,信頼関係形成過程として以下のことが明らかになった. 1.助産事故後の当事者間の信頼関係の変化 信頼は能力に対する期待と意図に対する期待(山岸,1998)によって構成され,その期待が裏切られた時,信頼は下落していた.しかし,有害事象の状況が深刻であることは紛争の火種であることは疑いの余地はないが,必ずしも紛争に発展するわけではなかった. 2.紛争に至る「分岐」の存在と初期対応(支援)の重要性 訴訟に至るまでには有害な結果をもたらした事態を「被害」と解釈し名付け,責任主体を見出し名付け,そうした解釈を表出し主張していくに至るかどうかの「分岐」が存在する(和田,2007).その「分岐」はある一時点からといった明確なものではなく,事故にあわれた方の状況により時間と舵のとり方は個々のストーリーの中に存在していた.協働的な信頼の存在や,事故後であっても対象者の苦悩のストーリーに応答的な対応がなされることによって,医療者との紛争に発展する「分岐」が軌道修正される可能性が示唆された. 3.助産師も傷つき追いつめられた中で初期対応をする必要性 初期対応の重要性が示唆されたが,助産師は,自らが関与したことで有害事象が発生したことに大きな衝撃を受けていた.管理者及びケア提供者である開業助産師は,事故への対処と共に他の妊産婦への責任も果たしていかなければならず,心理的にも追い詰められていく様子が明らかになった.したがって,助産事故を未然に防ぐことは大前提として,それでも不可避に事故はおこることがあると認知し,事故後には,紛争予防という意味あいを超えて,それまで培ってきた信頼関係をつなぐとういう視点にたった初期対応スキルを身に着けておく必要性が示唆された.
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