研究概要 |
1.救急領域の看護職員の惨事ストレスの実態とその影響の検証 看護師(351名)が被る惨事ストレスのうち、精神的に衝撃を受けた出来事として、「家族からの暴力(OR=2.84,95%CI:1.24-6.49)」「成人の心肺停止(OR=1.97,95%CI:1.08-3.61)」「交通事故(OR=1.87,95%CI:1.01-3.48)」を経験した看護師は、PTSDハイリスク者(IES-R25点以上)が有意に高かった(研究(1))。救急領域の医師(147名)では、「性犯罪による外傷」「小児の心肺停止」等の経験者にPTSDハイリスク者が有意に高く、職種によりPTSDと関連する惨事ストレスが異なることを示した。 2.PTSDハイリスク者の事例の分析 救急外来に勤務する看護師42名のうち、PTSDのハイリスク者(IES-R:27~55点)は4事例が該当した。 異動後1~4年目までの看護師で、「死体を見た・触れた」「患者や家族とトラブルになった」経験を有していた(研究(2))。医療安全の視点から、看護師のPTSDハイリスク者をスクリーニングし、必要な支援を提供する必要を示した。 3.研修会に参加した看護職員の惨事ストレスの実態とその影響 4会場の研修会の参加者358名に質問紙を配布し、304名より回収した(84.9%)。惨事ストレスで経験頻度の高かった出来事は、「職員からの暴言・脅し(44名,14.5%)」、「患者からの暴言・脅し(41名,13.5%)」、「成人患者の急変・心肺停止(36名,11.8%)」等の順であった。先行研究の結果(保健師、消防職員、海上保安官)と比較し、研修参加者のPTSDハイリスク者が31.3%(95名)と高いことを示した(研究(3))。 4.惨事ストレスの経験とPTSDハイリスク者が多い職場の選定(診療科別比較) 6病院3353名の看護師に質問紙を配布し、2528名より回収した(75.4%)。強いストレスを伴う出来事は、「成人患者の急変・心肺停止(271名,10.7%)」「患者からの暴言・脅し(227名,9.0%)」等であり、PTSDハイリスク者は23.9%(603名)と高かった。診療科別のPTSDハイリスク者の割合は、救命救急センター17.3%(56名)(研究(1))、ICU・CCU・MCU30.4%(68名)、手術室26.2%(34名)、一般病棟24.0%(384名)、精神科病棟23.8%(59名)、外来19.8%(52名)等であり、集中治療室が最も高い結果であった(研究(4))。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
調査予定の複数の病院施設が東日本大震災の影響を受け、調査実施が困難または調査開始時期が遅れたが、最終的には2年間で看護師の惨事ストレス調査として、4,202人に調査票を配布、3,242人から回収を終えた(研究1)。職員の自殺、患者からの暴力、患者の急変等の惨事ストレスを被った看護職員にインタビューを実施したが、協力者が目標数に満たず、質的分析には至らなかった。しかし、組織の支援体制が十分でない課題が明確となり、追加インタビューは不要であった(研究2)。全国の看護管理者に危機後の支援体制の実態調査(研究3)を予定していたが、計画を変更し、約54施設の看護管理者(看護部長、副看護部長)、病院長、医療安全担当者等、70名程度のヒアリングおよび意見交換を行い、現場の惨事ストレスの実態把握が不十分で、危機後の支援体制が進んでいない現状の問題を確認した。CVPPP(包括的暴力防止プログラム)を実施している3施設の看護管理者または担当者へのヒアリング調査では、実施上の課題を抽出できた(研究4)。研究の進捗状況はやや遅れているが、調査、ヒアリングの目標数をクリアし、研究目的の達成度としては問題ない。
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