平成23年度より継続して、本年度は質的研究方法(修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ)に基づき、1施設11名の看護師(脳外科・整形外科病棟に勤務する管理職・スタッフ)に協力を得て半構成的インタビューを実施した。質問内容として、急性期病棟での認知症高齢者の看護が困難な状況、必要と考える看護実践能力とは何か、能力獲得までの経緯等を聴取した。データ分析は、インタビュー・データより概念を抽出し、概念間の関連を検討した。抽出した概念は、先行研究・過去に蓄積したデータと併せて継続的比較分析を行った。 その結果、急性期病棟において認知症高齢者は常に看護師の意識下にある存在となり、患者が安全に治療を受けられるよう早期に急性期を離脱することが第一の目標となっていた。患者の見守り体制は自然形成され、背景には看護師自身の不安も原動力となっていることが示された。常に看護スタッフの誰かが見守る体制であるためには、看護スタッフ間の相互協力も欠かせない状況であると認識されていた。一方で、看護のマンパワーに限界があり、身体拘束も必要となる状況下では、繰り返される訴えに合わせる努力とその全てに応じられない葛藤、看護の許容量を超えること等が抽出されている。こうした状況下では、看護師間で情報共有がしやすい環境があること、高齢者の視点からも助言できる存在はサポート体制として必要とされていた。 また、急性期病院で必要な看護実践能力として見守りの常態化・ルーチン化、予測がつく、認知症がかえって回復を助ける、ハプニングを楽しむ余裕等、従来の認知症高齢者の見方からの転換といった看護師側の認識の変容も能力の一部として示唆されており、急性期病院に特有な看護実践能力として今後もデータを蓄積し、洗練を継続することにより看護教育・研究に貢献できると考える。
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