我々は重度認知症高齢者に対し音楽療法研究を実施し、快感情を誘発する特別な思い出がある好みの音楽の受動的聴取または能動的歌唱の両者共に短期的精神安定効果があることを確認した。一方、長期的効果においては関心・注意・感情機能に焦点を当てた音楽提供者の意図的介入による能動的音楽活動によって生活機能の改善効果、さらに受動的音楽聴取による機能維持が認められた。このような結果から、特別な思い出のある音楽を受動的に聴取することも重度認知症高齢者に何らかの影響があることが示唆された。 2013年1月 (2012年度)には、今までの研究成果の一部である重度認知症高齢者へ特別な思い出がある好みの音楽を用い重度認知症高齢者への音楽介入の影響を明らかにし発表した。この研究は、情動指標である自律神経変化と認知症の周辺症状変化等を測度に用いて、音楽によって誘発される快の情動が認知的予備力に影響する可能性を明らかにした。 2013年度は、さらに、音楽刺激がどのような影響を及ぼすのか、高齢者及び認知症高齢者を対象に、自律神経(心電図:心拍数・LF・HF・LF/HF)の変化および前前頭葉の酸素化ヘモグロビン・脱酸素化ヘモグロビンの変化(機能的赤外分光法:f-NIRS)を用いた実験のデータを解析した。この結果、健常高齢者より、認知症高齢者の方が特別な思い出がある好みの音楽聴取により、前前頭葉が活性化することが明らかとなった。現在、研究結果公開にむけて論文執筆中である。
|