研究概要 |
本研究の目的は,在宅の高齢者虐待事例に対する緊急対応のために行う養護者と被虐待者との分離に関し、その実態および課題を明らかにすることであった。全国市町村・特別区(以下市町村)合計1,750か所の高齢者福祉部門の高齢者虐待防止担当者を対象に平成22年11月~平成23年1月に郵送調査を行い、682市町村(回収率39.0%)の回答を得た。平成23年4月からそのデータを分析し以下の結果を得た。 虐待の相談通報をうけた市町村は585(85.8%)、通報総数(実数)10,682件。そのうち分離の実施は1,379件(13.9%)であった。分離を行った事例の属性(性別,年齢構成,要介護度,認知症自立度)、養護者との続柄は国の先行調査とほぼ同様であった。分離事例は、生命の危険のある状態と考えられるが、相談受理後一週間未満の虐待の事実確認は81.7%であり、分離の判断基準の未整備が63.5%、福祉職複数体制による判断が25%であったことから、被虐待者の身体状態について的確に判断するための体制の整備が必要と考えられた。また分離における看護職,福祉職,および関連職種の役割が明確でない可能性,分離の判断に心身の状態が根拠として適用されていない実態が推測された。本研究の限界は,回収率が39.0%と低く,センターにおける3職種の分離時の役割分担,実際に看護職がどのように分離判断を行っているか,看護職がフィジカルアセスメントを行っていない理由について調査項目に含めておらず,明らかにしていないことである。今後,市町村・特別区高齢者部門(センター統括部門含む),センター各々の看護職がどのように分離判断に関与しているかを明らかにする必要がある。
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