研究課題
今なお、モルヒネ類にかわる「夢の鎮痛薬」は実現していない。そこで本研究では、鎮痛作用を発揮するオピオイド受容体ではなく、逆の疼痛受容体、すなわち痛みシグナルを増強するノシセプチンおよびその受容体を阻害するアンタゴニストの設計という、既存と全く異なる新規メカニズムに基づく鎮痛薬の創製を目指す。3年計画の第2年度である今年度は、初年度に合成したCys(Npys)含有アンタゴニストを用いてノシセプチン受容体のアフィニティラベルを行った。まず、ノシセプチン受容体をアフリカミドリザル腎由来COS-7細胞で発現し、細胞膜画分を遠心により回収する。次に、ノシセプチン受容体の膜標品とCys(Npys)含有アンタゴニストを混合し、受容体の特異的結合部位にCys(Npys)含有アンタゴニストを結合させる。その結果、結合部位近傍に存在するアミノ酸(Cys)と、リガンドのSNpys基がチオールージスルフィド交換反応により、共有結合を形成するはずである。本研究により、確かにCys(Npys)含有アンタゴニストがアフィニティリガンドとして機能し、受容体をラベルする事が確認できた。アフィニティリガンドの濃度依存的に、ラベルされるノシセプチン受容体の量が変化するさまも解析した。これらの成果は、論文発表(Bioorg.Med.Chem.19,7597-7602(2011))として、既に、成果を広く世間に公表した。さらに、純アンタゴニストisovaleroyl-RYYRIK-NH_2のスーパーアンタゴニスト化にも取りかかった。N端isovaleroylにS(硫黄)を導入したアナログ合成、すなわち、methylthioacetyl基を導入し、結合能および活性を調べたところ、isovaleroyl基同様に、受容体を活性化しない純アンタゴニストであり、結合能もほぼ同じであることが判明した。methylthioacetyl基を持つアンタゴニストも、スーパーアンタゴニスト化の有力な候補となることが判明した。
1: 当初の計画以上に進展している
当初計画では、3年計画の2年度目に予定していたアフィニティラベルを、初年度で達成した。そのため、2年度目である本年度に、既に論文として成果を広く報告する事が出来た。ノシセプチン受容体の丸ごとアラニンスキャン変異体の発現プラスミド作製も順調に進んでいる。このように、当初の計画以上に進展した成果をあげた.
今後は、計画通りさらに強くノシセプチン受容体をアフィニティラベル可能なペプチドを設計・合成し、これまで以上に効率よく、受容体結合および活性化に重要な受容体部位を解析する。アラニンスキャン変異体の発現準備が整ったものから、順次に受容体発現実験を実施する。その結果と、別途に進行しているノシセプチン受容体の分子モデリングを比較し、特定のアミノ酸と結合して受容体をブロックする新規なスーパーアンタゴニストを設計・合成にとりかかる。ホモロジーモデリングに関して、当初計画作成時よりさらに多くの7回膜貫通型受容体の結晶構造が解かれており、これらを分子モデリングに反映させる。現状では、特に大きな変更点は必要ない。
すべて 2012 2011
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (6件)
Bioorg.Med.Chem.
巻: 19 ページ: 7597-7602
10.1016/j.bmc.2011.10.024
Peptide Science 2010
ページ: 175
ページ: 167
ページ: 128