アンジオテンシンII(Ang II)を脊髄クモ膜下腔内(i.t.)投与することにより疼痛関連行動が誘発された。Ang IIタイプ2 (AT2)受容体拮抗薬はこのAng II誘発性疼痛関連行動を抑制しなかったものの、AT1受容体拮抗薬は用量依存的な抑制効果を示し、Ang II誘発性疼痛関連行動におけるAT1受容体の関与が示唆された。Ang IIはAT1受容体を介してmitogen-activated protein kinase (MAPK) の強力なアクチベーターとして働くことが知られている。このMAPKはMAPKkinase (MEK)によりThr-X-Tyr配列のTyr及びTyr残基がリン酸化されることで活性化する。そこで、MAPKファミリーを構成しているextracellular signal-regulated kinase (ERK) 1/2、c-Jun NH2-terminal protein kinase (JNK)及びp38 MAPKのAng II誘発性疼痛関連行動に対する関与について各種阻害薬を用いて検討を行った。ERK1/2の上流活性化因子であるMEK1/2の阻害薬及びJNKの阻害薬はAng II誘発性疼痛関連行動に影響を与えなかったものの、p38 MAPKの阻害薬は用量依存的な抑制作用を示した。また、Ang II i.t.投与後の脊髄背側部における各種MAPKのリン酸化をウエスタンブロット法により解析したところ、ERK1/2及びJNKに関してはリン酸化が認められなかったが、p38 MAPKのリン酸化が有意に亢進していた。さらに、このp38 MAPKのリン酸化はAT2受容体拮抗薬ではなく、AT1受容体拮抗薬併用により完全に抑制された。これらの結果より、Ang IIは脊髄背側部のAT1受容体を介しp38 MAPKを活性化して疼痛関連行動を引き起こすことが示唆された。
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