本研究では、NAGPRA(通称「再埋葬法」)以後の北米博物館における「返還(repatriation)」がどのようにインディアンのアイデンティティの形成に寄与し、持続可能な実践となってきたのかをその課題とともに研究し、それをアイヌ民族と関係する博物館の場合と比較研究することを目的としている。そして、博物館と先住民族との新しい関係作りのための基盤作りを図ることも目的としている。 本年度は、米国と日本のケースを具体的な博物館に着目する調査から始めた。米国の場合は、バンダリア国立記念碑の博物館(BNMM)とニューメキシコ州インディアン文化芸術博物館において、日本の場合は旭川市博物館において、博物館とソースコミュニティ(SC)の関係のに関して調査した。この成果の一部(BNMMのケース)は、H23年11月に台北で行われるThe Museum2011という国際会議で報告され会議録として収められる予定である。この報告の準備段階で明らかになったことは、NAGPRAがすでに導入されている米国のケースと日本のケースでは、明らかに博物館とSCとの関係は異なる、ということである。NAGPRAのような法制がない日本の場合、果たして博物館とSCとの良好な関係はありえるのか、そして、アイデンティティ形成はあり得るのであろうか、という大きな問いを掲げることができるようになった。しかし、これは多大に政治的問題を含む。今年度は、2007年、展示のリニューアルが行われた旭川市博物館に対してなされた批判を調査し、そこでの問題点を、米国日系国立図書館と本学国際関係学研究科付設グローバル・スタディーズ研究センターとの学術交流の一環で行われた講演において口頭で報告し、議論をした。
|