本研究では、NAGPRA以後の北米博物館における「返還」がどのようにインディアンのアイデンティティの形成・発信に寄与してきたのかを研究してきた。そこで得た知見を日本のケースと比較することも目的として掲げたのであるが、問題も多く、本年度は本研究を遂行する中で生まれてきた「問い」を再検討し、新しい焦点を持つ研究に移行するための問題提起をすることとなった。 まず、本研究がこれまで着目してきたNAGPRAの生み出した論争において争点となった「文化的所属(cultural affiliation)」概念に着目し、これが「インディアン」概念を近代民族概念に回収することによりインディアン間の争いを引き起こす原因となったことを分析し、「民族」概念の再編の必要性を提示した(Fujimaki 2013)。 これを受け、NAGPRAのような近代法制度外でアイテムに対してなされる解釈という言語行為に着目することで、近代民族に回収されないものを求めることにし、毎年ニューメキシコ州サンタフェで開催される「インディアン・マーケット」というインディアン・アート・ショーでなされるインディアン・アイテムになされる解釈行為実践に、参与観察を通じて調査することとなった。 この結果、(1)インディアンによる解釈がアイテムに反映されるためには、アイテムそのものが持つ力だけではなく、ミュージアムであれマーケットであれ、当事者の声を反映するための制度上の整備が具体的に求められている。(2)したがって、NAGPRAのような法制度の内だけで「返還」のための議論を展開するよりも、今後はアイテムに対しての解釈行為実践のあり方を、構造的に変化させてゆく方向性を、法制度の外にあるイデオロギー的作用にも探る必要がある(藤巻 2013)。次回は、この作用を変化させてゆく可能性を、具体的な事例の中から見い出していく必要があると思われる。
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