研究課題/領域番号 |
22603001
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
葛西 祐介 東北大学, 大学院・理学研究科, COEフェロー (50379286)
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キーワード | 天然物化学 / ポリカバノシド / 海産毒 / マクロリド配糖体 / 有機合成 |
研究概要 |
食中毒の原因物質としてオゴノリから単離された化合物であるポリカバノシドAは、テトラヒドロピラン環と5員環ヘミアセタール構造を含む16員環マクロリドに、疎水性のトリエン側鎖とレフコシル-D-キシロースが結合した構造を有する海洋天然物である。強力なヒト致死毒性を有するため、生物活性発現機構の解明が望まれている。本研究ではポリカバノシドAの毒性発現のメカニズムを解明するために、天然物の試料供給を可能にする効率的な全合成ルートの構築を目指している。前年度までに、合成した2つのフラグメントを鍵反応である鈴木^宮浦反応によって高収率で連結し、その後数段階を経て得たセコ酸のマクロラクトン化によって、マクロリドの構築に成功した。しかし収率面で幾つか課題を残しており、改善する必要があった。当該年度では、不安定な中間体構造を避けるような合成経路の見直しを行い、また各反応の条件最適化を行うことで、マクロリド部を合成するまでの総収率を大幅に改善することに成功した。特に鍵反応の一つであるマクロラクトン化では、正宗らが開発した改良Keck法を用いることで大幅な収率の向上に成功し、量的供給が可能となる実用的な反応経路を確立した。L-フコシル-D-キシロース部の合成では、フコース部とキシロース部の結合生成反応にFraser-Reidらが開発したammed-disacmled法を適用することで、過去の合成法よりも短工程で、さらに高収率かつ高立体選択的に結合を生成することに成功した。合成したマクロリド部と二糖部、疎水性側鎖の3つの部分構造を、過去の合成例を参考に連結することで、天然物であるポリカバノシドAの全合成を達成した。全合成によって天然物の量的供給が可能になれば、生物活性発現機構の解明に向けた研究を促進することが出来ると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全合成に向けて課題であった幾つかの反応の収率改善に成功し、その結果実際に天然物を合成することに成功したため。合成の最終段階にまだ収率改善の余地があり、十分量の合成には至っていないが、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
全合成を達成したので、量的供給が次の課題である。最終段階での収率を改善して十分量の試料を合成し、生物活性試験に供する。また、構造活性相関による活性発現機構解明へのアプローチとして、類縁体の合成を行う予定である。一例として、ポリカバノシドAと共に単離されたポリカバノシドBは、疎水姓側鎖およびL-フコシル-D-キシロースの構造が若干異なっているが、マウスに対する毒性の強さはほぼ同等である。二糖部と疎水性側鎖部の構造を入れ替えることによって、天然物よりより毒性の強い化合物が創出されると予想され、二糖部や疎水性側鎖の構造が生物活性に与える影響に関して知見が得られるものと期待している。
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