研究概要 |
グアムとフィリピンで突然発生した食中毒の原因物質として紅藻オゴノリから単離された低分子有機化合物ポリカバノシドAは、テトラヒドロピラン環と5員環ヘミアセタール構造を含む16員環マクロリド骨格に、疎水性のトリエン側鎖および糖鎖部(L-フコシル-D-キシロース)が結合した構造を有する海洋天然物である。犠牲者が出るほどの強力な致死毒性を有するため、その毒性発現メカニズムの解明が望まれている。しかし天然から毒分子を採取することが困難なため、研究の進展を妨げていた。本研究ではポリカバノシドAの毒性発現のメカニズムを解明するために、天然物の量的供給を可能にする効率的な全合成ルートの構築を目指した。 昨年度までに、天然物であるポリカバノシドAの全合成に成功した。しかし得られた合成分子は極微量であったため、合成法の改善が必要であった。量的供給を困難にしていた理由の一つとして、疎水性側鎖部分である (1E,3E)-5-メチルヘキサ-1,3-ジエン誘導体の合成が困難であることが挙げられた。既知の方法では量的供給が困難であると考え、新たな調製法を種々検討した。その結果、2価クロムを用いる高井反応を鍵反応とした方法で収率が改善し、かつ望む幾何異性を有する化合物を選択的に得ることに成功した。また、最終段階である疎水性側鎖とマクロリド部の連結に鈴木-宮浦反応を適用したところ、良好な収率でカップリング体を得た。合成した天然物をマウスに投与したところ、天然物と同様の症状を示すことを確認した。
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