本研究では、筋ジストロフィー患者に見出されたジストロフィン遺伝子第31エクソン変異とそれに伴うスプライシング異常の解析を通して、筋肉におけるスプライシング調節機構の解明を目指します。 また、そのような異常スプライシングを是正する低分子化合物のスクリーニングを行うことで、現在治療法がない筋ジストロフィーについて、スプライシング変異を持った患者の治療薬開発につなげたいと考えています。 この患者では、その変異のため機能のある蛋白質ができないと予想されましたが、患者組織を用いた免疫染色像より、ジストロフィン蛋白質がある程度発現しているのが観察されました。そこでRNAを解析したところ、変異を持った第31エクソンを含むmRNAの他に、このエクソンを含まないmRNAが発現していることが明らかになりました。そこでこの患者にみられる変異は、第31エクソン内のExonic Sphcing Enhancer(ESE)が活性を失い、エクソンとして認識されない結果、とばされるものと考えられました。このことを詳細に解析するため、第31エクソン付近の配列を別のレポーター遺伝子コンストラクト中に挿入し、同様のエクソンがとばされる現象がみられるかどうかを検討しました。その結果、HeLa細胞内においても、変異を持った第31エクソンがとばされるのが観察されました。また、ESEに結合する因子としてSRp30cを同定し、患者の持つ変異がこの蛋白質の結合を阻害し、代わりにhnRNPA1蛋白質の結合を強めることでエクソンとしての認識を弱めていることを見出しました。
|