研究課題
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne muscular dystrophy,DMD)は、ジストロフィン遺伝子に変異が生じたことによりジストロフィン蛋白質が全く欠損した疾患です。現在までのところ、根本的な治療法はありません。本研究では、筋ジストロフィー患者に見出されたDystrophin遺伝子変異とそれに伴うスプライシング異常の解析を行います。また、この患者では、変異がみられるエクソンをスキップさせることで、ある程度の活性を持つタンパク質が産生されていますが、申請者らはこのエクソンスキップを促進させることができる低分子化合物を見出しており、その作用機序の解明を行うことで、筋ジストロフィー患者の治療薬開発につなげたいと考えています。平成23年度は、以下の実験を行いました。1)低分子化合物スクリーニングのためのレポータープラスミドの構築申請者らは、Clk(Cdc2 like kinase)の特異的阻害剤であるTG003が、第31エクソンのスキップを促進することを見出しました。今後さらにスクリーニングを行うため、変異型エクソンレポーター遺伝子の3'エクソンの下流に、Renilla LuciferaseのcDNAを、エクソンがスキップした場合にのみ読み枠が合うように連結しました。このレポータープラスミドを培養細胞に導入し、患者での異常スプライシングを再現できることを確認しました。2)他の筋ジストロフィー患者にみられるスプライシング異常の解析神戸学院大学の松尾雅文教授との共同研究により、申請者はスプライシング異常を伴った患者の例を他にも同定しています。これらの変異のうち、イントロン内に変異がおき、偽エクソンを生じた例について解析を行いました。これらの変異を持ったジストロフィン遺伝子の領域を用いてレポーターを作製し、培養細胞内で異常スプライシングが再現できることを確認しました。また、試験管内スプライシング系も構築し、試験管内においても異常スプライシングが反映されることを確認しました。
2: おおむね順調に進展している
薬剤候補を探索する目的で、筋ジストロフィー患者のレポータープラスミドを構築しました。また、他の筋ジストロフィーのスプライシング異常についても、解析できる系を構築することができました。これらの系は、最終的な薬剤スクリーニングおよび異常スプライシング分子機構解明のためには欠かせないものであり、治療薬候補の探索および薬剤作用機構の解明に向けて順調に進んでいると考えます。
作製したレポーターを安定に発現する培養細胞株を樹立し、ケミカルライブラリーのスクリーニングに用いる予定です。ライブラリーはFDA認可化合物や東京大学や京都大学が所有する化合物を用い、候補化合物の早期同定を目指します。また、試験管内スプライシング反応系は、トランス因子やシス配列の同定だけではなく、スプライシングのどの過程に影響があるかを調べるのに非常に強力な系です。今後この系と、培養細胞から調整した核抽出液を用いて分子機構の解明を目指します。
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Journal of Cell Biology
巻: 195 ページ: 27-40
Scientific Reports
巻: 1 ページ: 92
DOI:10.1038/srep00092
Nature Communications
巻: 2
10.1038/ncomms1306
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