本研究は、抗腫瘍性抗生物質であるプルラマイシン類をリード化合物として、蛍光分子プローブの創製を目指すものである。プルラマイシン類は2つのアミノ糖によってDNAの塩基配列を認識し、高い生理活性を示す。一方、蛍光分子は生体分子を標識化することで、生命現象を観察するために利用される。蛍光分子にプルラマイシン類が持つ糖部位の構造を導入することができれば、特定のDNA配列を認識する蛍光プローブの創製が期待できる。しかし、その糖部位はビス-C-グリコシドという特徴的な構造を持ち、合成は容易でない。まずは、プルラマイシン類の実践的合成法の開発を目指し研究を開始した。 当該年度では、プルラマイシン類のアグリコン部位の合成を目指した。すでに、申請者らのグループはビス-C-グリコシド構造の合成に成功している。しかし、2つのアミノ糖を有したままでは、使用可能な合成反応が限られるため全合成には至っていない。さらに、合成の過程において予期しない現象が頻発することも問題である。このため、いかにして糖部位の構造を保持しつつ骨格変換するかが重要であり、どんな場合にも有効に働く信頼性の高い反応の開発が必要となる。申請者はナフトキノンモノアセタールのDiels-Alder反応を鍵反応として合成に取り組んだ。 ナフトキノンモノアセタールは、求ジエンとしての反応性の低さ故にDiels-Alder反応に利用された例はほとんどない。しかし、Diels-Alder反応は基質を混合するだけで反応が進行するため、適切な条件を見出すことができれば、アミノ糖を持つ基質についても適用可能と期待できる。検討の結果、Brassardジエンとモレキュラーシーブス4Aを組み合わせると反応が円滑に進行し、望む付加体を得ることに成功した。現在、糖が導入された誘導体への適用について鋭意検討中である。
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