アルツハイマー病(AD)の原因物質と考えられている42残基のアミロイドβペプチド(Aβ42)は,凝集することによって神経細胞毒性を示す.近年,凝集中間体であるオリゴマー(特にダイマー)が認知機能低下を誘導する真の毒性本体として受け入れられている.このことから,Aβ42ダイマーの機能解析とともにそれを標的とした阻害剤の開発が強く望まれている.本研究は,DNAアプタマーの特異的な結合能に注目し,Aβ ダイマーを合成し、それを標的としたDNAアプタマーの開発を目的としている. 昨年度までに,Huisgen [3+2] 環化反応(クリックケミストリー)を用いて,凝集活性に影響のないLys28残基で架橋したAβ42ダイマーを合成したが,DNAアプタマーのセレクション時に使用するトリスバッファー中で,Aβ42ダイマーは短時間で凝集して線維(フィブリル)化してしまうことがわかった.そこで,再度,戦略を立て直し,Aβ42の毒性発現に必要な部分配列であるAβ10-35を用いてダイマー化させることにした.架橋反応には前々年度に用いたジアミノピメリン酸をリンカーとした手法を用いることによって,収率の増大を試みた.しかしながら,この場合でも凝集してしまったことから,C末端側を36番目まで1残基伸ばしたAβ 部分配列を用いたところ,少なくとも24時間以上,安定であった.現在,DNAアプタマーの取得のためのDNAライブラリーの作製を終えたところであり,今後の展開が期待される. 以上の成果に加えて,共同研究として,新しいAβ42オリゴマー化阻害剤を開発した.プロドラッグとして設計したキノリン骨格を有する4価の白金化合物は,生体内における代謝作用によって2価の活性型に変換された.そこで,4価の白金化合物をADモデルマウスに胃内強制投与したところ,脳内のオリゴマー形成およびシナプス毒性が顕著に緩和された.
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