研究概要 |
近縁種である2組の菌の間で誘引、阻害が見られる生物現象を分子レベルで解明すること、およびタマバエの近縁種がブナの葉に卵を産みつけることによってできる虫えいの多様性を目的として研究を行った。 互いに近縁の寄生菌P1,P2が、互いに近縁の真菌C1,C2を侵食する際に、組み合わせによって寄生菌の誘引現象、もしくは侵食に対する阻害現象が見られる。このうち、成長の速い寄生菌P2に注目してC1、C2からの誘引、阻害に関わる物質を探索した。その結果、C1の抽出物からP2に対する誘引活性を示す新規の芳香族化合物を単離、構造決定した。この誘引物質は高濃度ではP2の侵食阻害活性を示すため、この活性物質の濃度が誘引、阻害現象を司るのではないかと考え、別途培養したC2の抽出物の成分を調べたが、同じ物質は検出できなかった。このことから、C2はC1が生産する活性物質とは別のP2侵食阻害活性物質を生産していることが示唆された。 タマバエがブナの葉の組織を異常発達させてできる虫えい、ブナハアカゲタマフシに注目し、特徴的な桃色の主要色素としてアントシアニンの一種であるシアニジン-βガラクトシドを同定した。また、HPLCのクロマトグラムの比較により、虫えい中の赤色色素が葉に比べて3倍程度多いことを明らかにした。これを受けて、虫えいからアントシアニンを異常生産させる物質を探索すべく、シロイヌナズナの若葉に試料を適下する評価系を確立した。アントシアニン類の生合成促進剤としてコロナチンを合成して適下し、若葉が赤変することを確認した上で、抽出物の活性を調べたところ、抽出物に若葉を赤変する活性が見られた。また、タマバエがブナに形成させる他の虫えいであるブナハハベリフシやブナハツノフシについてはバリエーションに富んだ形状が形成時期や形成箇所に影響される可能性を見出した。
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