多くの抗菌ペプチドは、標的細菌の細胞膜を破壊して抗菌性を示す事が知られている。このような抗菌ペプチドとは異なり、「アピデシン」は標的の細胞膜を壊すことなく細胞内に入り、細胞質で抗菌活性を発揮する。その作用機構は、細胞膜透過と続く分子標的阻害から成るが、これら過程の詳細は不明のままである。本研究ではアピデシンの作用機構のうち、前者の膜透過に焦点を当ててアピデシンの細胞内導入量を不連続的に見積もり、抗菌活性と細胞内導入の関係を明らかにする事にした。最近、田口らによりアピデシンのN末端側配列を改変して野生型の抗菌活性を上回る高活性アピデシンが幾つか得られている。そこでこれらペプチドのN末端に、蛍光色素フルオレセインをリジン残基を介して結合した標識ペプチドを作製した。これらペプチドの大腸菌に対する抗菌活性を調べたところ、いずれも色素結合により活性は低下したが、相対的な活性順位は維持された。またいずれのペプチドも膜を透過して大腸菌細胞内に導入されることが共焦点レーザー蛍光顕微鏡を用いた観察により確認できた。次にこれら標識ペプチドの細胞内導入を定量的に評価するため、標識ペプチドを作用させた大腸菌細胞集団を流動細胞計測(フローサイトメトリー)により分析した。その結果、ペプチド濃度と導入量の間に正の相関が見られ、活性の強いペプチド程、導入量も多くなる傾向が見られた。更にこの相関を基に膜透過効率と抗菌活性の関係を検討したところ、各ペプチドについて膜透過と標的阻害のどちらの過程が抗菌活性の増強に寄与するか推定する事ができた。まとめると、アピデシンの膜透過効率の上昇は、高活性化の原因の一つである事が示された。また細胞内導入後の分子標的との結合も活性増強に寄与する事が示唆された。この簡便なアッセイ法は、他の膜透過型抗菌ペプチドに応用できる可能性を秘めている。
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