研究課題
加齢性難聴の発症では加齢にともなう感覚細胞および支持細胞の変性が発症原因の一つとして考えられているが、詳細は明らかになっていない。加齢性疾患の発症には時間がかかることが最大の問題としてあげられることから、本研究ではショウジョウバエとマウスを用いた解析系を行なっている。これらの解析系に対してケミカルジェネティックスの手法を用いることにより、加齢性難聴の発症を抑制する薬剤を個体レベルの解析から明らかにすることを目的としている。本年度は加齢性難聴のショウジョウバエモデルを用いて、発症メカニズムを詳細に解析した。その結果、転写コリプレッサーEbiの機能低下によりCaspase依存的なアポトーシスのシグナル伝達が過剰になることにより感覚細胞が細胞死に導かれることを見いだした。具体的にはCaspaseの阻害因子(IAP)の機能を阻害するPro-apoptotic遺伝子群の発現がEbiにより抑制されることを明らかにした(Lim et al,PLoS ONE,in press)。マウス加齢性難聴モデルとしてはEbiのヒトホモログTBL1のN末端を感覚細胞特異的なエンハンサーであるMath1^Eの下流につないだコンストラクトを作成し、これをB6バックグランドでTgマウスを作成した。現在、有毛細胞における発現および表現型を観察している。さらに、ショウジョウバエ加齢性難聴のモデルに天然物由来の化合物ライブラリーを投与することにより、表現型である複眼変性が抑制されるものを検索した。これまでのところ、テトラヒドロクルクミン(THC)に抑制効果があることが明らかになっている。本研究から加齢性難聴のメカニズムが明らかになってきたことから、THCの作用点を探る手がかりになると考えられる。加齢性難聴は我が国において重大な医療課題として考えられていることから、本研究が予防・治療薬の開発につながっていくことを期待している。
3: やや遅れている
加齢性難聴の表現型解析に予想外の時間がかかってしまい、THCの作用点を解析するまでに至らなかった。また、マウス加齢性難聴でも、当初開発したICRバックグランドでのTgマウスはICRに存在する加齢性難聴の表現型が強く影響することがわかった。そこで、B6バックグランドのものを新たに作成したので、マウスに対するTHCの効果を見る計画も果たせなかった。
THCをラテックスビーズに結合させたアフィニティーカラムを作成し、これに昆虫細胞抽出液を通す事によりTHCに結合する蛋白質の同定を行なう。このとき構造が似ているクルクミンを結合させたカラムを対照として用いる事によりTHCに特異的に結合する蛋白質を同定する。また、マウス加齢性難聴のモデル系に対してTHCを投与したときの効果を検討する。このとき聴性脳幹反応(ABR)を用いて経時的かつ定量的にアッセイする。
すべて 2011 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (2件) 産業財産権 (1件)
Aging
巻: 3 ページ: 1098
Genes to Cell
巻: 16 ページ: 896
doi:10.1111/j.1365-2443.2011.01537.x.Epub2011Jul18
PLoS ONE
巻: (印刷中)