研究概要 |
加齢性感覚器障害の発症には長い時間がかかることから、本研究では短時間で加齢性感覚器障害を観察できるショウジョウバエとマウス解析系を確立した。これらのモデルは加齢性感覚器障害を短時間で経時的かつ定量的に解析できることから、化合物を用いたケミカルジェネティックスによる研究アプローチで発症メカニズム解明を試みた。 これまでの解析の結果、ショウジョウバエ光受容細胞ではストレス応答を抑制するメカニズムの存在を明らかにすることに成功した(Lim et al. PLOS ONE, 7: e37028, 2012)。このとき、感覚細胞で働く転写コリプレッサーであるEbiと、ストレス応答の下流で機能するAP-1転写因子が共役してアポトーシス関連遺伝子発現を抑制していることを見いだしている。これに先行する研究で、ショウジョウバエに対する寿命延長効果を示すポリフェノール(テトラヒドロクルクミン:THC)の存在を明らかにすることに成功していることから(Xiang et al. Aging, 3: 1098-1109, 2011)、この系をショウジョウバエ感覚器障害のモデルに適用して解析したところ、THCにより感覚器の変性が抑制されることが観察された(投稿準備中)。このように、ショウジョウバエの解析系は加齢性感覚器に対する薬剤効果を検定する系としても優れていることが予想されたことから、次にマウス解析モデルの作成を行なった。ショウジョウバエで明らかになった転写コリプレッサーの哺乳類ホモログを内耳有毛細胞特異的に阻害した結果、騒音曝露後に聴力が著しく低下する騒音性難聴の表現型が観察された。騒音性難聴は加齢性難聴のモデルとして考えられていることから、本研究システムは加齢性感覚器障害をショウジョウバエとマウスで解析する有効な解析手段になることが予想される。
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